第23話 それぞれのお国事情
それぞれのお国事情
タクシーの乗務員をしていると様々な国からお越しのお客様をお乗せします。今回はお客様との会話や対応から、それぞれの国のお国事情が感じられるエピソードを紹介します。
その1
数年前の話です。11時に強羅の高級ホテルにお迎えに行きました。日本人のお名前のお客様。10分前にホテルに到着しました。
フロントのスタッフの方に到着したことを伝えます。
しばらくすると年配の日本人の女性と若い欧米の女性がやってきました。行先は箱根湯本駅。
走り始めると日本人のお客様が「日本のタクシーは凄いわね。」と声をかけてきました。
真意が分からず「何かありましたか。」と答えます。
「だって指定した時間通り来てくれたでしょ。」(まぁ、時間指定で受けたら当然の言えば当然の話)
「指定があれば、少し前に到着するよう努力しています。」(まだ、真意が分からない)
「私ね、30年前に○○○○(南欧の某国)に移住したんだけど、あっちじゃ時間指定なんてできないのよ。」
「この間なんか、30分待っても来ないから督促の電話したのよ。そしたら目の前を空車が通ったから、その車を寄こすように伝えたら、
その空車を自分で止めてくれって。日本じゃ信じられないでしょ。」話の内容と話し方が面白かったので、吹き出してしまいました。
お客様は現地でレストランを経営していて、もう一人の若い女性はスタッフ。日本に帰って来て日本を案内しているらしい。
久しぶりに帰ってきた日本で日本のサービスレベルの高さに驚いた、と仰っていましたが、本当にレベルが高いのかと感じるシーンも増えてきたように感じる今日この頃です。
その2
これも数年前の話。南米の国からお越しのお客様。片言の日本語で話されます。
指定された場所で支払いを済ませると、「タクシー、フォト撮りたい。」と。「OK。」と答えます。
すると車内のフロアやシート、外側の写真を撮った上で何か言っています。多分、一緒に写真を撮りたいらしい。
再び「OK。」と答えると連れの女性にカメラを渡し、タクシーの前で二人で方の組んで記念撮影。
「日本のタクシー、メチャ奇麗、凄い。」と言われました。どうやらその方の国のタクシーはとても汚いらしい。
まぁ、日本のタクシーは毎日掃除してますから、奇麗なのは当然と言えば当然。
その3
ゴールデンウィークのある日、宮ノ下からアメリカ人のご家族3人が乗車されました。行先は箱根湯本の旧道沿いの宿。
当然1号線は渋滞しています。何とか湯本駅前の温泉場入り口に辿り着き、狭い滝通りに入ります。
弥栄橋を渡るとさらに狭い道へ。通るたびに、これは一方通行にすべきだろうと心の中で舌打ちするような道。
よせばいいのに対向車は慣れないのに入ってきてしまったようで立往生。少しバックして左に寄せます。
対向車は反対側に寄せれば通れるはずなのに、横に来て停車。仕方ないので、さらに左に寄せて通り抜けました。
その際、後部座席の息子さんが窓を開けて下を見ながら「amazing~。」と言っているのが聞こえました。
降車の際、お父様がスマホに何やら話して、画面を見せてくれました。
「アメリカのタクシーはこんな道は通らない。息子も貴方は凄いと言っている。写真を一緒に取りたいそうだ。」との表示が。「OK。」と答えると、お父様がスマホを構え、車の前で息子さんと記念撮影。チップまでいただきました。
日本のドライバーは狭い道も普通に通りますが、道幅が広く、車体も大きいアメリカではこんな狭い道は通らないんでしょうね。
その4
箱根湯本の駅から南欧の某国のお客様をお乗せした時のことです。お乗りになったのはお母様とお嬢様(推定年齢20~30歳)。
指定の宿について740円(当時のレートで初乗り運賃)を支払い、一旦お二人は降車されましたが、お嬢様が戻って来て、スマホの翻訳で
「荷物を載せて箱根湯本駅に戻って欲しい。」と。私は自分のタブレットで「メーターを入れても良いか。」と確認します。
「OK。」と言うことでメーターON。ところがお母様がなかなか戻ってこない。
ようやく戻って来て荷物を載せて箱根湯本駅に戻ると、料金は920円に。
料金を伝えるとお母様が「何で行きと料金が違うんだ。」と少しお怒りぎみの質問。
そこで、タブレットを取り出し、「お嬢様にメーターを入れて良いかと確認した上で、メーターをONにして待機していた。5分以上待機していたので、その分課金が発生している。」と説明。
すると「それは分かった。でも、貴方は800円にすることができる。」とスマホで主張。
さすがの私も堪忍袋の緒が切れかかって、タブレットを使わずに「ノー!ノーディスカウント!!」と答えました。
仕方ないと言う感じで財布を取り出し支払いは完了。しかし、後味があまり良くない感じ。
たまたま、その日の夕方お乗りになった日本人のガイドさんにその話をしたところ、
「あーぁ、あの国のタクシーは二重価格になっているから、ごねるとディスカウントする場合があるんだよ。運転手さん、全然気にすることないから。」との説明。なぁんだそんなことだったのかと納得。偶然その日のうちにお乗りになったガイドさんに助けられました。
※画像は今から十数年前、高松に長期出張中に遊びに行った美馬市のうだつの町並みのカフェで撮った一枚