好みの味が見つかる梅干しの藤屋
現在は東京から京都に出かける場合、新幹線ののぞみを利用すれば2時間15分で行くことができるが、東京が江戸と呼ばれていた時代、江戸から京都に向かう場合は、幕府によって整備された東海道を歩き、箱根の関所を通って三島に向かう必要があった。
東側の小田原宿を出発して西の三島宿までの八里(32キロメートル)を徒歩で歩いたのだが、旅人は険しい山道に入る前に小田原宿で必要な食料品を調達したらしい。その食料品の中には梅干しが含まれていた。梅干しは今でもコンビニおにぎりなどで人気の食材だが、保存性が高く、弁当の防腐や栄養補給、疲労回復の効果もある梅干しは、当時箱根越えをする旅人にとっては重要な食料だった。
小田原は戦国武将の北条氏が兵糧用に梅を城下に植えたことなどから良質な梅の実が豊富で、その後、曽我の梅干しとして小田原の名産となった。
曽我の梅干しは実が青いうちに収穫、果肉が厚く中は柔らかいのが特徴だ。
その曽我の梅干しの専門店が箱根湯本駅前で現在も営業している。現在の場所に店を移した時期などは不明だが、その昔は小田原で店を構えていたらしい。
古来からの製法を継承し、天然塩を使用、塩分を控えめにして土蔵に寝かせたまろやかな梅干しを提供している。また、自社で古漬けの梅干しも手掛けており、5年漬け、10年漬け、20年漬けの梅干しもある。もちろん、しそ漬けの梅干しやはちみつ梅も扱っており説明を聞きながら試食もできるので、好みの梅干しが見つかるだろう。説明を聞いていると何だかワインの話を聞いているように感じるのは本紙記者だけだろうか。梅干しも奥が深いと感じる。なお、近所には藤屋のお店が2店舗(民芸店、温泉場店)あり、箱根の寄木細工をはじめとした可愛らしい民芸品を扱っているので、合わせて立寄れば、箱根の旅がさらに楽しくなるはずだ。
※上記内容は本紙2024春号第一版・第二版に掲載した記事に加筆修正を加えたものです。