第25話 タクシー乗務員の悩み
タクシー乗務員の悩み
悩みと言うほどのことではありませんが、時々対応に苦慮するお客様もいらっしゃいます。今回はそんな例をいくつか紹介します。
少額利用での福沢諭吉先生
最近は実業家の渋沢栄一氏になっていますが、まだ、福沢諭吉先生だった時代の話。
チェックアウトが集中する時間帯に強羅駅近くのホテルに若いカップルをお迎えに行きました。行先は強羅駅。料金はワンメーター。当時のレートでは740円。強羅駅に着いて金額を伝えると男性が福沢諭吉一人を差し出しました。私たち乗務員は個人の負担で釣銭を用意していますが、そんなに潤沢に用意はしていません。不足すれば、小田原の営業所に両替に行くか、銀行で個人負担で用意するか、コンビニで買物をしてくずすか。特に午前中の早い時間だと本当に困ります。
「もう少し細かいのはお持ちじゃないですか?カードでもお支払いできますが。」
「これでお願いします。」と男性。するとドア側に座っていた女性が、男性の財布を覗き込みながら、
「さっき宿で釣銭もらったでしょ。ほら、あるじゃない。」
「えっ、でもこれはチケット買うのに・・・。」(電車の切符を購入するのにくずしたかった様子)
「私の父さん、若い時タクシーに乗ってて釣銭用意するのに大変だったんだから。運転手さんごめんなさい。」
と言うことで夏目漱石一人でのお支払いとなりました。しっかりしたお嬢様で助かりました。
タクシーの乗車定員についての誤解
道路交通法で車の乗車定員は定められており、12歳未満のお子様は2/3名となっています。つまりお子様一人は0.66名となります。
よくお子様二人で大人1名や膝の上に乗せるから大丈夫と主張されるお客様がいらっしゃいますが、どちらも誤解です。
万が一、定員オーバーで運行して検挙された場合はタクシー会社や乗務員が罰せられますので、ご理解いただきたいと思います。
相乗りタクシー
最近、一部のエリアで相乗りタクシーの運行が許可されている場合がありますが、通常のタクシーは相乗りの営業は許可されていません。
たまに、「運転手さん、同じ宿だから一緒に乗って行って良いですか?」と聞いてくる方がいらっしゃいますが、通常のタクシー乗務員が相乗りを認めることはできません。お客様同士が打ち合わせして、乗務員に申告せずにお乗りになる場合は問題ありません。
ペットの同乗
最近、ケースなしでのペットの同乗を認めている一部の公共交通機関がありますが、タクシーはアレルギーの問題で盲導犬や聴導犬以外のペットが同乗する場合はケースに入れるように定められています。これは乗務員の好き嫌いの問題ではありません。
以前有名ホテルからお乗りになった年配のお客様。乗車されると
「〇〇ちゃん、お膝のほうが良い?」とワンちゃんに声をかけるとあっという間にバッグから出して膝の上に。すぐにタクシーを止めて
「お客様、申し訳ありませんが、ご乗車中はワンちゃんはバッグの中でお願いします。」
「私はこのホテルに何十回も泊まってその度にタクシー使っているけど、今までそんなことは言われたことない。」とお客様は主張。
「これはアレルギーの問題で神奈川県のタクシー協会から指導されています。」と言うと渋々、バッグの中に。
目的地までの約20分、車内は重苦しい雰囲気に・・・。ようやく目的地について清算すると、
「あなたねぇ、何十人の運転手が認めているのに、あなただけなのよ!あなたの負けなのよ。名前言いなさいよ!クレームするから。」
名前を告げて、私の名前の入った名刺を手渡しました。すぐに会社に電話しましたが、結局電話はなかったようです。
目的地の確認
随分前の話です。強羅の駅前から中年のお客様4名がお乗りになりました。行先は奥湯本のホテル。行先を復唱、メーターをONにします。
助手席に座った方が「何分くらいですか。」と訪ねてきました。
「そうですねぇ、今日はあまり渋滞していないようなので、湯本までが25分、湯本から10分で35分くらいだと思います。」
「えっ、じゃいくらになるの?」
「凡そですが、4,500~5,000円くらいだと思います。」
「えっ、だって、駅から10分って言ったじゃない。」
「すみません。私はそんなことは言っていません。誰が言ったんですか?」
「ホテルのフロントよ!電話で確認したんだから。」
「それはホテル側の問題ですよね。どうしますか。」
結局、その場で降車されることになりましたが、すでに発生している初乗り料金740円をいただくのにかなり苦労しました。
その後、このようなケースはありませんが・・・。
これまで7年半のキャリアの中で苦労したケースを紹介させていただきました。