編集長の思い出 第16話 転職相談室inTaxi
転職相談室inTaxi
コロナ感染拡大前の2019年年末だったと思います。夕方、ある美術館の前でご家族4人がご乗車されました。行先は箱根湯本駅。
あいにく、国道一号線は宮ノ下の富士屋ホテル前から渋滞。恐らく、箱根湯本駅まで1時間以上はかかる状況。ひょとすると1時間30分。
ご家族は年配のご夫婦とお嬢様と息子様。お父様に事情を説明して、元箱根から旧道で箱根湯本駅に向かうことになりました。
当時のレートで3,500円程負担は増えますが、渋滞で停車時間が長くなることを考えると料金的にはほとんど変わりません。しかも時間的には遠回りしても30分以上早く到着できます。
走り始めてすぐにお母様が私の名前に気が付き、私の名前と過去のキャリアで車内は盛り上がりました。
こういう時に私の名前と過去のキャリアはとても好都合です。スーパーから通信販売会社、商社や出版社に勤務して、最後の20年間はコールセンター運営会社で管理職として勤務した経験談は特にお母様とお嬢様が興味を惹かれたご様子。
旧道に差し掛かる頃、お母様が「実は娘が今転職を考えているんですが、何かアドバイスはありますか。」とお尋ねになりました。
聞けば、念願かなって金融機関に就職できたものの、希望する業務を担当することができず、上司からは興味のない業務の知識を勉強するよう指導されているとのこと。すでに就職して3年が経過しているので、転職を考えているとお嬢様はおっしゃいました。
実は私も若い頃は自分がやりたい仕事(企画系)を担当させてくれないことにかなり不満をいだいていたことがあって、あまり上司の指示に従わない時期もありました。35歳で主任をしていた或る日、上司から呼び出され、パソコンのEXCELの研修に参加するよう指示されました。
当時、パソコンを使っている同僚はあまりいなかったこともあり、私は「ワープロを使っているので、パソコンは結構です。」と返事。
普段なら笑って済ますような上司でしたが、その時は一歩も引かず、翌週2日間、不本意ながら外部のパソコン研修に参加。
興味がないので、初日は30分遅刻。しかし、初日の夕方から始まった関数計算の講義位から徐々に「これは今の管理業務に使えるのではないか。」と感じ始め、講義終了後にインストラクターを質問攻めに・・・。
2日目の「条件式」の講義が終わるころには「私のオフィスにもパソコンを導入してもらおう。」と考え始めてました。
そして、研修最終日である2日目の講義が終わると、会社に戻って上司にパソコン導入の陳情。
その後、30代後半、50代前半で転職をしましたが、恐らくパソコンのスキルがなければ、転職は難しい年齢だったはず。
また、今、手掛けている「箱根観光情報新聞」の発行も、パソコンの知識があったからこそ実現しました。
お嬢様に私のこの経験について話した上で、「若いうちは色々と経験する機会が沢山あるので、その機会を自分でなくしてしまうのはもったいない。上司の方が薦める知識の習得で新たな可能性が見つかるかもしれない。もう少し辛抱してはどうか。」とアドバイスしました。
ちょうど、その話が終わった頃にタクシーは箱根湯本駅に到着。
今度はお父様が「運転手さん、講義を延長してもらって、行先を小田原にしてもらえますか。」と。
そこで、小田原駅までお送りすることに。
降車の際に、お母様が「娘がもう少し今の会社で頑張ってみると言ってます。ありがとうございました。これ講義代です。」と話され、チップを渡してくださいました。少しお役に立てたようです。