編集長の思い出 第12話 夕方の林道で
3年前の11月初旬だったと思います。泊り番だった私は夕方、担当する駅の前でお客様がご乗車されるのをお待ちしていました。
泊り番と言うのは朝から登山電車の最終便までを対応するシフトで6日に一度巡ってくる当番です。
まだ、コロナが収まっていない時期だったので、電車から降りてこられるお客様はまばら。
「今日も暇そうだなぁ。」と独り言を言っていたところ、女性がふらりと車の横にこられました。
扉を開けると
「○○〇〇のバス停までお願いできますか?」
「かしこまりました。」
どうやらキャリアウーマン風の女性です。しかし、行先のバス停は林道の途中にあって、冬の暗くなった時間帯に女性が一人で行くような場所ではありません。夜の箱根はイノシシの家族も闊歩しています。夜間はタクシーの台数も限られているので、いざとなった時にすぐにお迎えに行けないかもしれない。走りながら、しばらく逡巡していましたが、これは確認しておかないといけないと判断。
「お客様、今日はお仕事か何かですか?」と声をかけました。
「そうです。仕事みたいなものです。」
「林道の途中なので、この時間は真っ暗ですが、大丈夫ですか?」
「この季節だから真っ暗ですよね。ご心配ありがとうございます。会社のオーナーが施設を建設していて、進捗を確認しに来たんです。」
あー、そう言うことでしたか、と安堵するのと同時にその施設が気になります。編集長魂と言う感じでしょうか。
それから目的地に到着するまでの数分間で施設の概要を聴取、箱根観光情報新聞の概要を説明して、取材の申し込み。
翌年の春、施設がオープンする直前に取材をさせていただきました。この仕事をしているとこんなラッキーなこともあります。