編集長の思い出 第11話 ドリフのコント?


 

 今年のある暑い晴れた日、私は愛車に刷り上がったばかりの夏号第二版を積んで、観光案内所数ヶ所を訪問していました。
 本紙は慢性的な人手不足、というよりも一人しかいないので、編集長が各種交渉、取材、記事執筆、校正、新聞配布などすべての業務を行っています。で、毎回、ある観光案内所のそばにある喫茶店の横を車で通ると、何の変哲も合い喫茶店なのになぜか店内にはお客様が一杯。
 外観は50年位前に学生街にあったような雰囲気のお店。通るたびに「なぜ、こんなに人気があるんだろう?」と不思議に思っていました。
 その日は早めに配布ができた上に、かなり暑かったこともあり、「ちょっと休憩して行くか。」と言う感じでお店の扉を開けました。
 ところが、扉が開いたとたんに疑問の答えが頭に浮かびました。「なるほど、そう言うことだったか。」
 店内からはあの紫色の煙が漂ってきたのです。「懐かしい。」実は私も20年程前まではヘビースモーカーと呼ばれていました。
 各テーブルには懐かしいあの丸いプラスチックの器が置いてあります。一瞬躊躇しましたが、扉を開けてしまったので、仕方なく開いている席に。年配の女性がお水を持ってこられました。
 「何にします?」早くできるものを頼んで、サッサと出ようと考え、
 「カレーライスとアイスコーヒー。」
 「カレーライスとアイスコーヒーね。」年配の女性はカウンターの方に戻っていきました。

 しばらくすると年配の女性がお盆にアイスコーヒーを乗せてやってきました。早く飲んで、カレーを早く食べてサッサと出よう。
 さすがに、20年口にしていないと紫色の煙の中で過ごすのは厳しい。

 ところが、年配の女性は私の横を通り過ぎて、お店の奥に。そこには私のあとに入店した中年の女性が一人がいるはず・・・。
 年配の女性が
 「あら~、○○ちゃん久しぶり。」
 「ご無沙汰してます。」
 「今日は何にする?」
 「アイスコーヒーをお願いします。」
 「あっ、じゃこれ。」年配の女性は手元のアイスコーヒーを中年の女性のテーブルに置きました。「えーっ、それは私の!」
 中年のお客様と年配の女性スタッフは世間話で盛り上がっています。
 仕方ないので、カウンターにいる中年の女性スタッフに手で合図をして来てもらいました。
 「あの~、頼んだアイスコーヒーがあそこのテーブルに行っちゃったみたいなんですけど。」
 「ご注文はアイスコーヒーなんですね。」
 「カレーライスも頼んでるんですけど。」
 「アイスコーヒーとカレーライスですね。」と伝票を書いている様子。と言うことはさっきのオーダーは・・・。
 幸いなことにアイスコーヒーとカレーライスはすぐに届きましたが・・・。
 ひょっとすると日常的にこの光景が繰り広げられているのかも。

 昔懐かしい、あのドリフターズのコントを見ているような光景でした。今でもこのお店の前を通る時は思わず笑ってしまいます。