編集長の思い出 第1話 誕生日の失敗


 乗務員としての研修が終わり、一人で業務を始めたころの話です。
 箱根湯本駅から4人のご家族が乗車されました。お嬢様が私が左腕に付けていた新人と書かれた腕章に気が付いたご様子。
 「運転手さん、新人ですか。」
 「はい、2年前に箱根に移住してきて、今月からこの仕事についています。」
 お父様から
 「移住、良いですね。羨ましいです。でも、まだお若いでしょ?」
 「先日60歳の誕生日を迎えました。」
 「えっ、そんな歳に見えませんけど。でもおめでとうございます。」
 お嬢様
 「ハッピーバースデ―、運転手さん。」
 「ありがとうございます。」

 と車内は私の誕生日と移住の話で大変盛り上がりましたが・・・。
 気が付いたら、行先の旅館は車窓の後方。

 「申し訳ありません。」
 お父様
 「おめでたいし、良い話を聞かせてくれたから。」と皆様、笑顔で降車されました。

 新人だから許されたミステイクでした。