第22話 イノシシ親子とのご対面

イノシシ親子とのご対面
箱根は自然に囲まれた環境なので、人以外の動物も沢山います。最近は熊や鹿も丹沢や伊豆から流れてきていて、登山道に「熊に注意」と書かれた看板が立っていたり、食事中の鹿と出会ったりすることもあります。以前、お客様をお連れして遊歩道を歩いていた時に、茶色っぽいロープが落ちていたので、お客様に「そこにロープが落ちているので、注意してくださいね。」と声をかけたら蛇だったことも・・・。
しかし、そんな箱根の動物の中で主として君臨しているのは、やっぱりイノシシでしょう。最近は役場が頑張って駆除しているので、出会うことは稀になりましたが、以前は週に何度か出会ってました。
そんなこともあって、夕方、周辺にコンビニがない宿にお客様をお連れするときには「コンビニとかに寄らなくて良いですか?」とお尋ねします。理由を聞かれると「箱根は暗くなるとイノシシが出歩くことがあるので・・・」とお話しします。
先日も若い女性お二人を仙石原の宿にお送りする際にその話題に。するとお客様から「その話もホームページにアップしてください。」とリクエストが出ました。そんなことがあってこの記事を書くことにしました。
あれは、2019年頃のことだったと思います。深夜に仕事を終えて愛車を駐車場に収めて、自宅までの20メートルくらいを歩こうとしたところ、何かの気配が・・・。暗闇に目を向けると、そこに3頭のウリボウを従えた母親がこちらを睨みつけています。
なぜ、「母親だと分かるのか?父親かもしれないじゃん。」と言う声が聞こえてきそうですが、父親は子どもが出来ると放浪の旅に出てしまうようで、イノシシ一家は基本的に母子家庭らしいです。
で、出会ったイノシシの母親のの距離は30メートルくらい。自宅のほうがほんの少し近い距離ですが、イノシシが走ってきたら絶対間に合わない距離(だと思う)。絶対絶命のピンチ。頭の中にいろいろなことが浮かんできます。走馬灯のようにと言うのはこんな感じのことを言うんでしょうね。管理職として勤めていた会社に辞表を出したときのこととか、箱根に来た初日のこと、ドライビングスクールの教官のこと、業務開始初日のことなど。今となってはどうでも良さそうなことばかり。「大変なとこに来てしまった。」とちょっと後悔の気持ちも。
恐らく、ほんの一瞬のことだったのだと思いますが、物凄く長い時間立ち尽くしていたような感覚。
その時、大学時代に先輩から聞いた熊に出会ったときの対応が頭に。今の体形では信じられないと思いますが、学生時代は登山を趣味にしてました。当時、一般的には〇んだふりが有効と言われていましたが、実際にはそれでも襲ってくる場合があるので、眼をそらさず(かと言って睨みつけず)に少しずつ後ずさりで距離を広げて、充分距離が開いたところで一気に安全な場所に非難すると言う対策。
「ほんとに有効なの?熊の対策がイノシシにも効くの?」と言う疑問はあるものの、真偽を確認する余裕はないので、即実行。
イノシシの母親はじっとこちらを見ています。数メートル動いたところで、植え込みがあることに気が付きました。あそこまで行けば。
数十秒後、植え込みの陰に辿り着いたと同時に猛ダッシュ。玄関までの石段を駆け下りて、ポケットから鍵を取り出して、鍵を鍵穴に。
まぁ、後で考えたら、多分、イノシシご一家はディナーを済ませた後のはず。イノシシにとって箱根は食材の宝庫。食べ物に困ってないのでわざわざ人間を襲う必要もないし、危害を加えるような人間には見えなかったんじゃないかなぁと勝手に解釈しています。
それから数ヶ月後、今度は夕方のマンションに向かう森の中の道路。丸太が3本転がっている。「誰だよ、こんなところに丸太を置いて。」と丸太をどかそうと車を降りかけた時。よく見ると丸太に3本のラインが引いてある。えーっ、ウリボウじゃん。周辺を見ると茂みに母親が。 その日は少し前まで雨が降っていましたが、道路はもう乾燥してました。イノシシの子供たちは家に帰ってもジメジメしているので、乾燥した道路でお昼寝をしていたんでしょう。せっかく気持ちよく寝ているのに申し訳ないなぁと思いながら、クラクションを鳴らしますが、動き出す気配なし。仕方ないので、ヘッドライトでパッシング。ようやく1頭がしょうがないなぁと言う感じで立ち上がって母親の元へ。残りの2頭も「兄貴(姉かも?)が行くのなら、帰るか。」と道を開けてくれました。
最近はこんな出会いもなくなりましたが、夜の箱根は注意が必要です。